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【企画】「巨大段ボールディスプレイ」のアイデアを形にするまで

2017年4月24日更新

依頼は突然に

始まりは、音楽レーベルのお客様からのメールでした。

 

「10日後までに、巨大な段ボールを作りたい。作ることはできるだろうか。」

 

なんでも、とあるミュージシャンのデビューアルバムが、世界同時リリースされることになり、そのプロモーションを世界各都市・同日に行うことになったそう。そこで、日本ではアルバムのジャケット写真に使用されていた段ボールを大きく作り、それを街に置きたい、ということでした。

 

メールには、街中に置かれている巨大段ボールのイメージ画像と、ジャケット写真の2点のみが添付されており、まさに「巨大な段ボールを作りたい」という、大まかな希望のみが決まっているという状況でした。

 

「納得のいくレベルのものを作れるだろうか。」

 

これがお客様から相談を受けたとき、頭によぎった率直な気持ちでした。というのも、通常であれば巨大段ボールを作ろうとする場合、段ボールを特注する必要があります。しかし、今回のケースはイベント当日まで10日間という残り少ない時間での依頼。

 

実は、この日数では段ボールの特注が出来ないのです。特注不可・限られた時間でどのように巨大段ボールを作り上げていくかがキモになると感じました。

イメージを「形」にするまでの過程

巨大段ボール実現のために、お客様と話し合いを進めていきました。

実現可能な段ボールのサイズではどうしても、お客様の希望の高さを表現することができません。そこで段ボールの下に台を置いて高さを表現することを提案しました。(図1参照)しかし、億役様から「下の台はいらない」という要望をいただきました。そこで、当初の希望の縦横比とは異なるものの、インパクトを与えることのできる大きさに変更しました(図2参照)。大きさが決まれば、次はデザインです。

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▶︎図1:初期段階の設置イメージ。

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▶︎図2:最終決定した段ボールの大きさ。CDケースに近い形となった。

 

デザインに関しては、CDジャケットに使用されている段ボールのデザインを用いて欲しいという要望があったため、そのデザインをベースにスタートし、そこからどんどん完成形に近づけていきます(図3、図4、図5、図6参照)。どのようなデザインにしようか試行錯誤を重ねる中で得た、新たなアイディアがそのまま採用されることもあります。そのため、様々な可能性を検討することが重要です。

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▶︎図3:下の台を撤去、段ボール単体に。箱の側面に設置されるモニターを埋め込みたいという要望が生まれる。

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▶︎図4・5:側面もしくは正面にアーティスト写真を使用する案が浮上。アーティスト写真の枠に段ボールを使用。

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▶図6:︎最終案。アーティストを大きく出していこう!となり、ロゴを側面に用いることになった。また、モニターの下にアルバム収録曲も記すことになる。人の目線の位置を意識したデザインとなっている。

 

デザインが決まれば、いよいよ施工です。今回の施工における一番のポイントは「段ボール」という素材です。

 

施工物を製作する美術チームから、「段ボールを手配するなら、最低でも5日は欲しい」と事前に言われていました。つまりデザインが決定次第、迷う間もなく施工で使用する素材を決めなければならない状況だったのです。

 

また、巨大段ボールは3日間、屋外のイベントスペースに設置される予定でした。そのため、耐久性の問題を鑑みた際に「ロゴや字はどのように段ボールに出力するのか?文字シールだとはがれてしまうのではないか?」という懸念もありました。そうした中、「どのように段ボールらしさを表現する?字はどうするのか?」といった2点を解決しうる、3つの選択肢が浮上しました。

 

⒈段ボールの画像と字を出力。(高解像度の段ボールの画像がない。)

⒉段ボールの色と字を出力。(デザインが安っぽくなる。)

⒊本物の段ボールを使用し、その上から文字ペイントを施す。(手間が非常にかかる。)

 

ここから私たちが選んだのは「本物の段ボールを使用し、その上から文字ペイントを施す」方法でした。時間が非常に限られているにもかかわらず、あえて手間がかかるという方法を採用したのは、最もクオリティの高い巨大段ボールを作れる方法だったからです。

 

また、弊社と提携している美術チームには「イレギュラーな仕事が楽しい」「納得のいかないものは世に出したくない」といったポリシーの持ち主が多く、非常に意欲的に製作に取り組んでくれます。そのため、3つめの選択肢を選んだとしても、必ずやり遂げてくれると信頼していたのです。

 

本物の段ボールを使用することが決まったものの、特注はもう不可能な状況です。特注をせずとも段ボールを表現するために出てきた案が「段ボールを木工パネルの上に貼り付ける」という方法です。これなら特注する必要もなければ段ボールらしさを一気に演出することが可能となります。

 

美術チームのセンスにより、段ボールの上からまばらに塗装を施したり、わざと破ったりすることで、段ボールの「古さ」を演出し、よりリアルなものに仕上げました(図7参照)。制約の多い状況の中でも、お客様の要望をできる限り忠実に再現させるための適応力、引き出しの多さが輝いた瞬間でした。

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▶︎図7:「古さ」演出が施された段ボールのパネル。文字は一つ一つフォントの型を作成し、その上から塗っている。

 

予期せぬアクシデントさえも腕の見せ所に

順調に段ボールの作成が進んだ一方、イベントの2、3日前の天気予報が新たな懸念を生み出しました。雨の予報が出たのです。元々巨大段ボールは地面に直接設置する予定でした。しかし、雨が降ってしまうと段ボールが濡れてしまい、2日目・3日目の設置に支障をきたしてしまいます。

 

実は、利用予定のイベントスペースではステージを使用することが可能ですが、ステージの貸し出しを受けようとすると、追加費用がかかってきます。更に、イベントスペースには若干の斜面があり、斜面に対応したステージを使用しないと、平行に段ボールを設置することができないことも判明したのです。

 

「段ボールを雨に濡らさないためにステージを借りるしかないのか?」と誰もが思うであろうこの状況に私たちが出した答えはこうです。

 

「いや、借りるのではなく、自分たちでステージを用意しよう。」

 

ステージの用意が決まり、早速どれくらいの傾きなのかを計測し、当日にスムーズにステージを組めるように準備を進めました。こうして10日間はあっという間に過ぎ去り、イベント当日を迎えたのです。

 

 

イメージが実現した瞬間

イベント当日は天気予報の通り、雨が降りました。しかし、予めステージを用意したため、段ボールが濡れる心配は不要でした。どんどんスペースにセットが運ばれ、一つ一つ組んでいきます。

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▶︎図8:ステージ設営の様子。

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▶︎図9:段ボールの側面を運び込む様子。

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▶︎図10:モニターを埋め込み、正面も組む。

モニターを組み込んだ際、本体の音量では音が聞こえないことに気づき、施工で請け負っていましたが、予定になかったスピーカーも追加で設置することにしました。これで準備万端となりました。

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▶︎図11:道行く人の視線を釘付けにした。

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▶︎図12:レコード店前に設置された様子。

巨大な段ボールは、道行く人々の視線を釘付けにし、間違いなく圧倒的なインパクトを与えることに成功していました。また、段ボールの周りでは、外国人の父親が流れてくる音楽に耳を傾けながら歌い、彼のお子様が楽しそうに踊って遊ぶ、微笑ましい風景に出会うこともできました。こうして、イベントは大きなトラブルもなく無事に終えることができたのです。

 

今回のお客様からは、「特別なイベントを行わなくても、段ボールを置くだけでこんなにインパクトを与え、反響を得られることができるんですね」と、満足の声をいただくことができました。

 

 

「無茶ぶり」こそが楽しさの原石

「巨大な段ボールを作りたい」という突拍子もない依頼。それに加えて、準備期間がわずか10日しかない厳しい条件。一見すると、「無茶ぶり」のように思えるかもしれません。ですが、私たちはこの「無茶ぶり」を大歓迎しております。そして、それらを必ず満足のいく形で実現させる力があると自負しております。なぜなら、私たち「東真」は50年に渡って培ってきたイベント企画・施工における経験を強みとしているからです。発想の引き出しはもちろん、多種多様な状況への適応力の高さ、クオリティへのこだわりは随一です。

「こういうことやってみたいけど、本当にできるのかな?」

「やってみたいことがあるけど、ぼんやりとしたイメージだけで何をすればいいか分からない」

 

そんな時は、ぜひ私たちにお任せください。

 

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